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【復刻】 104 帰属と自立 20000422

人間の心理や行動のなかで、帰属ということがとても大きな意味を持つことに気がつく。これは、民族によりパターンは異なるかもしれないが、ひとたび帰属が決まると、人間は、個人のときにはしないような奇妙な行動をとることがある。集団意識と呼ぶのか、帰属意識と呼ぶのか学問体系的なことは私には良くわらないが、場合によると同じ民族が東と西、北と南に別れてしまったばかりに、それまでは仲間であったはずの、お互いが戦争をしたりするし、幾つかの組織では社会的には認められないような行動をしている。政治や行政など、集団になっていると世間のルールと内部のルールとが一致しないことすら起こっている。これについては、所詮組織とはそんなものさ、と言う片付け方ではなく、自立という観点から考えてみたい。

帰属という安心感と快適さ
帰属というのは快適なものだし、根源的なものに近い。現代では人間は生まれて家族に帰属する。これは母親を中心とした、育児チームの中で食事や教育の世話をされる仕組みに入ることを意味する。ここに、人間としての帰属意識や社会性の原点があり、それが成長とともに身について行くように思う。この帰属は、一般的には安心感のあるものでありまた、快適なものでもある。個人が成長するにつれて、次のステップとして学校と言う集団に入ると、その中で帰属意識が要請されたり、育成されたりする。さらに、社会生活をする上で何らかの組織に入ることになるので、そこでの帰属が始まる。そこで、その仕組み中でのルールや慣習に慣れて行くことになる。本人の帰属の意識が強くなればなるほど、そのルールや慣習が身についたものになるわけである。

帰属の優先度
このような、帰属という事柄を眺めてみると、個人の立場からすると大きく変わる点がある。それは、ひとたび帰属すると、意識はその時点で大きく変化すると言うことにある。たとえば、朝鮮半島に38度線と言う境界ができて、北と南に分かれたとき、今までは親戚として付き合っていた人々もそれぞれの帰属先によって、帰属先が変わる。それがひいては政治が主導する敵対関係野中に巻き込まれることにもなる。このことを、帰属の優先度によると言う見方もあるが、確かにそうだとしても、血縁を超える帰属意識と言うのは、並みの優先度ではない。
最近、新聞で騒がれている警察関連の不祥事など、世間の善悪の常識を、帰属による安心感で打ち壊しているように見えて仕方が無い。それも、帰属の中でのみ許される状況で。

個はどこへ行ったか
そのような事件や、問題が起こったときに個はどうしていたのであろうか。ここに帰属という大きな仕組みと罠があるように思う。帰属をすることで、個人はその帰属先に忠誠を誓う。帰属先は、忠誠を尽くす人にそのエネルギーや、活動を帰属先の都合に合ったように使う。そして、その結果の評価は帰属先の論理で行う。そのとき個人は、帰属先に寄りかかった形となる。以前、堺屋太一氏が組織はできたときから「組織を維持することを目的とする」と本に書ていたが、帰属先は帰属を維持することが、大きな目的になってしまう。どんな組織も、それを残すことに大きなエネルギーを使う。そう考えると、帰属すると言うこととは個人がその中で帰属先に寄りかかり始めたら、隷属関係しか残らないことになる。これは、人間の自立とは、矛盾する。すなわち自立を目指している人間には帰属というものは、自己放棄に等しい。

帰属はバーチャル
こうやって、帰属を考えてみると、帰属とはいくらでも変わるバーチャルなものであることがわかる。
言いかえると、個人が、自分の置かれた状況において自己規定しているものであり、それ以外の何物でもない。その論理、その活動、いずれもが、後天的に取り入れられている。もっとも生まれた場所や環境は、自分では選べなかったことではあるが。しかし、このバーチャルに振り回される人間と言うのも現実にいるわけだし、そのときに、帰属に対峙する個人がいることで、帰属の関して、チェックしバランスをとることができる。日本の社会における帰属への大きな依存がもしあるとすれば、これは個人の自立と異なるし、現在の状況を「他者との関わり」でしか考えられないこととなる。現実には仮想的に考えられた帰属ということこそ、実はバーチャルのひとつの典型だということが言える。

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