【復刻】 064 情報の集め方 19981220

米国の経済が、未だ勢いを失っていないのと比べて、日本の経済は明確な指針の無いまま活気を失っています。以前、失敗の本質という本を紹介した中で、大本営の行動は、明確な指針を出さずに太平洋戦争を実行してしまったこと、そして、現地はひたすら局地戦で戦うことしか考えていなかったことです。これが、米国の諜報活動によって、日本軍の手の内を読まれながら、ひたすら敗戦へと進んでしまったシナリオです。その時と比べても、現在はあまり変わらないのではないかとさえ見えてきます。あるべき姿の議論が無いまま、対処方のみの対応に追われているからです。今回は、そのなかで情報の持つ役割を考えたいと思います。

情報は、猫に小判、棚からぼたもち
情報はすべて受け手の見る目によって、変わります。同じ新しい技術の情報でも、ある人にとっては、自分の夢をかなえるような応用を思い付いたとしても、別の人には、何の意味も無い単なるお話レベルになってしまうこともあります。これは、多くの場合自分がどれだけ主体的に考えるかという、情報を待ちうける姿勢に依存することが多いと思います。これは、善悪ではなくいろいろな場面での人間の対応だと考えればいいと思います。すなわち、個人としてはある問題では、いいアイデアを思い付いても、別の問題では何も考え付かないというのがごく普通だと思います。ですから、同じ情報がある人には、猫に小判かもしれないし、ほかの人には棚からぼたもちのように見えることがあり得る、というわけです。

情報とは多様性そのもの
情報の価値というのは、どこにあるでしょうか。誰もが知っていることや、みんなが同意していることは情報にはなりにくいです。情報の本質は、ほかと違うことにあるのです。日本の社会は未だ、同質性を善として進んでいるように見えますが、これは現在選択すべき良い方法でしょうか？確かに工業化の拡大の時には同じ考えで進むということが重要でした。その時には共有する情報に大きな差はありませんでしたが、現在は質の転換が問われて来ていると思います。そうすると、必要なのは情報ということになります。先ほど述べましたように、情報は普通と異なるものなのです。それを効率的に把握し、活用するのは多様な人達ということになるわけです。

多様性を統率するのがリーダーシップ
それでは、それらの多様性をまとめあげて、どうやって具体化するのがいいのでしょうか。それに必要なのがビジョンだと思います。意見に対してまとめあげるにはあるべき姿が分かりやすいのです。それを、個々に説得して、まとめあげることこそ、非常に大きなリーダーシップということになると思います。そうなると、自分が何を描いているかということが、一番大きなポイントで、これが現在の社会の動きを決めているのではないかと思います。日本人にとってはあまり慣れないことではありますが、次の時代に日本が、その存在を示すためには避けて通れない道筋だと思います。
過去を振り返ると？
日本の歴史の中で、現在はものすごく大変な時期であるのは間違いありません。しかし今だけだったでしょうか？私はそうではないし、過去にも同じような状況を乗り越えてきた時代があったと思っています。その一つは幕末から明治というところです。その中で、リーダー達は未来へのビジョンと、現実の行動を、苦心して結び付けました。例えば、吉田松陰は、松下村塾の塾生に対して、批判めいたことは一言も言わずに、その長所を採用しています。それぞれの持ち味が、後々生きてくるということを、見通して人を育てました。坂本竜馬は、議会主義に対して、少ない情報から船中八策という、明治政府の五箇条の御誓文の素案を書いています。ほんの130年ほど前のことですが、その間に日本人は、情報ボケになってしまったのではないかと思えるほど、同質性ばかり追い求めて来ています。この辺で考えていることを、外に向かって発信するのもいいのではないでしょうか。個が個の主だとすると、リーダーは発生しやすくなります。そんな状況にもうなって来ていると実感するこの頃です。