【復刻】 062 集団行動について 19981129

私は、歴史はあまり詳しくないのですが、最近、江戸時代から明治時代にかけての小説などを集中的に読んでみて、幕末と言う時代の閉塞状況や、明治と言う時代のもつ伸びやかさを随分感じることが出来ました。とはいうものの、大部分が司馬遼太郎の本によるものですから、必ずしも史実ではないのかも知れませんが。私は、20年ほど前に「忠臣蔵」が嫌いになりました。理由は割と簡単です。間違った行動をした上司に、忠誠を尽くして、人を殺して、その後みずからも命を絶つと言う行動が不思議になったからです。そして、「坂の上の雲」にも出てくる、乃木大将の203高地攻撃の愚かさは、トップの指導、あるいは行動で、とんでもない犠牲や無駄が出てくることを示しています。それを言ったら、歌舞伎も六本木も面白くなくなるかもしれませんが、少しまとめてみたいと思います。

「死」のもつ意味
江戸時代は、典型的な縦社会であったわけですが、一つだけ哲学があったように見えるのは、「死」と言うものと正面から向き合っていた時代ではないかと思うからです。有名な鍋島藩の「葉隠」に「武士道とは死ぬことと見つけたり」とありますが、これは現代の私たちの環境とは大きく違うと思います。もちろん、武士に言い訳さえあれば、庶民は斬り捨て御免であったわけですから、普通の市民も武士と同じように「死」と言う意識を常に身近に持たざるを得なかったと思います。ですから、一言といえども、なかなか重みのある場合もあったわけです。逆に言ってしまうと、現代は死から遠ざかることが人生の一つの大きな課題であるかのように、動いています。これは江戸期とは異なる意識だと思います。

主への忠誠
これは、縦社会にはつきものの価値観ですが、どのようにして組織を維持、発展させるかと言うこととつながります。ここで注意していただきたいのは、組織の目的とどのように整合させるかと言う視点が有るか無いかで、行動が大きく変わることです。言い換えると、組織の長によって、組織の意識は変わると言うことです。組織の中に入ってしまうと、その組織固有の価値観までが常識になってしまうので、渦中で冷静に見るのは大いに難しいことだと思います。一つだけ言えるのは、集団とは個の寄せ集めではなく、一つの意志を持った組織体になると言うことではないかと思うのです。特に縦社会での規律と言うことになると、想像を絶する行動に出ることもあります。その一つが、第二次世界大戦だったと思います。最近の生命の定義は、個（細胞）の相互ネットワークと言うような表現になっている事もありまして、社会学的組織論と生物学的組織論とに接点が出て来ているように見えます。では、縦社会ではないときの忠誠とはどんな形になるのでしょうか？これが21世紀になったときの価値観を規定すると思います。

ネットワークの先達
ネットワークと言う概念は意外と新しい概念で、特に世界中をネットワーク化しようと言うWorld Wide Webの概念からは10年ほどしか経っていません。その概念とは、世界中の人々をネットワークでつないでしまおうと言うものです。そして、今やそのシステムもできあがりその中でマスコミの情報、ビジネスそして、コミュニケーションなどあらゆるものが入り込んで来ています。特にすごいのは、個人と言えども、堂々と世界に向けて発信できると言うところです。これは人類史上未だかってなかった快挙です。そしてその利用で成功した一つの集団行動モデルがシリコンバレーにあるのではないかと思います。それではシリコンバレーの集団行動とは何でしょうか？これは、目的のために力を合わせることだと思います。それがシリコンバレーでの地域で協調する集団行動、そしてグローバルに競争するシステムになるように思います。そして、集団は時として一緒になり、また時として離れます。メンバーは流動的です。しかし、一人一人がネットワークになっているので、必要に応じて臨機応変に動けるわけです。

集団行動は個人意識の結果
そうやって考えると、集団行動と言うのは個人意識の結果と考えて良いのではないかと思います。時代が動いたとしても、個人がどのように考え、行動するかと言うことが、重要だと言うことです。そして、目的を持った個人が時代のツールや規範を使いながら決めて行くと言うことを、改めて実感させられました。