品質という話になると、日本の製品は世界一という評判があります。これは、事実でして、現在の日本の製品は、高品質で名前が通っています。たとえば、Consumer Reportという、米国で権威のある消費者、製品評価の雑誌などでも、日本車の評価は、大変高く、信頼性評価などで、エンジン性能や、トランスミッション、電気系統、塗装、エアコンなど16項目にわたって評価しています。その中で、トヨタやホンダの車は、非常に高い品質スコアを獲得しています。この事が価格に反映されて、日本車は高性能、高価格と言う評判を得ています。すなわち、高くても売れる車ができているのです。そして、米国はその秘訣を採り入れるために、輸入車規制を行い、(それを逃れるために日本の自動車メーカーに、組み立てや、部品工場を米国内に作らせ)今や高い品質の車が、日本の会社だけでなく、米国の自動車会社の手によって、米国内でも作られるようになりました。これは、車作りの業界が、地道に品質改良し、手法を確立した成果だと思います。1980年代からの、日本の工業製品の高品質時代を代表していると思います。
中古市場の機能
高品質で、価格が高く売れる理由を考えてみました。車の場合は、中古になると下取りに出し、買い替えを行う人が多いのです。その時に、日本車は下取り価格も高いので、初期投資が少しぐらい多くても、下取りのときに、高く買い取られるので、実質の負担は少なくて済む、という経済サイクルが働いています。その、中古リサイクルの市場を持たない電気製品や、普通の消費財は、製品の初期価格が、購入者の一番大きな着目点になります。この市場は、趣味の要素が大きいものを除けば、価格が購入動機の大半を占めています。ですから、米国では家電などは、単純な機能で低価格なものしか、手に入りません。因みに、私が日本で見た物価で、米国よりはるかに安いと思えたのは、中古車の価格でした。3年経ったら新車の半値以下と言うのは、米国では考えられない価格です。極端に言いますと、米国は、どんなに古くても、機能するものには、値段がつきます。そして、それらを使う人もいるのです。
住宅の流通
米国の、住宅と言うのも、大きな中古市場を持っています。米国の人口は日本の人口の倍ですが、年間の新築住宅着工件数は、日本の160万戸に対し、米国は140万戸程度しかありません。この中身には、家族構成に合わせた家に住む、ということと、引越しをいとわず、自分で気に入ったところに移るという、考えがあります。ですから、家が一生の買い物と言うような、発想は見られません。それですので、どうやって、現在の家を住みやすくするか、ということにとても熱心になります。だから一家の主は、家の手入れにとても熱心になります。(私は、全く違いますが)そこでも、中古市場の存在のおかげで、手入れされた、程度の良い家が、高価格で取引されるのです。(家の売買は、中古マーケットが中心です)
住宅で考えた事
米国の住宅の建て方を見ていると、とても面白いです。日本では、棟梁と呼ばれる人が、いつも現場に張り付いて指揮をして、家が建てられて行きます。米国では、土台を作る人、壁、柱を立てる人(壁で支える家が多いです)そして、屋根を葺く人、電気工事をする人が、別々に来て完成します。ですから、工事の途中、それぞれの作業分担でチームが組まれます。そして、完成すると一家の主がチェックして、引渡しが終わります。このときに、主が実に細かくチェックをします。それで良ければ、OKです。新築住宅(土地の値段は入っていません)の値段を見た事があるのですが、80坪の住宅(ガレージや、屋根裏部屋も入れてですが)で、セントラル空調を入れて、坪当たり、15-20万円位でした。柱が少なくて、空間が多い家になりますが、値段が安いのは、大きなメリットだと思いました。日本の1/2から1/3という感じでした。工事費もそうですが、住宅の品質という点で、いくつか、住む人達がカバーしていることがあります。それは、多少の欠陥があっても、自分で直すという人が、多い点です。ですから、高い住宅ではなく、ほどほどの品質でも、価格が安いほうが良いという考えが、強いのだと思います。これは、日本の住宅が、一生の買い物という発想とは、かなり違っていると思います。
品質と、価格のバランス点
あまり、定量的でないのですが、95%の仕上がりのものを、99.9%に上げるには、コストが2-3倍かかるという話があります。日本の品質規格は、厳しい消費者の目で見られたから、向上しました。ただし、それはコストも上がってしまう要素を持っています。良く言われる話ですが、凹んだ缶詰は買わない、とか、ラベルの印刷がきれいでないと、ワインが売れないとか、日本人の美意識とつながって、厳しい審美眼を工業製品にも適応しようとしています。それで、コストが上がらないといいのですが、むしろそのためにコストを発生させているのが、現状のように思えます。インフラで言えば、電力など、停電発生率は世界でもまれに見る、低い水準です。しかし、それが高コストから来ているとすると、インフラの弱さにつながります。国際競争力というのは、質もさる事ながら、価格も納得できるレベルを要求されると思います。いままで、質で成功してきた日本の知恵と、技術をもっと価格に反映させる仕組みを作る必要があると思います。そのためには、自分でできる事をする、という心構えと、インフラを安くする事は、国民が豊かになることである、という考え方を理解する事から始まるのではないかと、思っています。
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