今、「失敗の本質」という、14年ほど前にダイヤモンド社から出版された本を読み返しています。
内容は、太平洋戦争で中国や東南アジアで遂行された、作戦と呼ばれる大きな戦いにおいて、軍隊という組織が、どのように指示命令を出し、戦いの最前線が、どのように動いたかというのを、検証したものです。結論を言ってしまうと、大本営は明確な指示を出さずに、思い込みの概念で戦をしてしまったこと、最前線は、指示が出ないことにあわせて、独断で戦いを進めるというちぐはぐな行動が多く記されています。そして、マスコミは大本営の発表をそのまま載せて、結果的には国民を欺いてしまうという構図が出ています。これらの事は、当時の事情はどうあれ、現在生きている私たち一人一人がもっと、振り返って、何が本当の問題だったのかを考えてもいいのではないかと思います。14年前の本とはいえ、今でも多くの示唆に富む指摘をしています。むしろ、バブルのときに生かされなかったことが、悔やまれるほどの出来だと思います。現在の状況に合わせて、中味を検証したいと思います。
思い込みの世界
この本によれば、当時の大本営の指導者たちは、日露戦争の成功者が数多くいた。そして、その時の成功体験は、陸軍であれば歩兵と歩兵が接近戦で戦う、白兵戦というものと、海軍であればバルチック艦隊を撃滅した海軍史上完璧な勝利といわれた、最後の決戦を巨大な砲艦で戦うという大艦巨砲主義でした。そして、実践に関しては陸軍では「精神力」を鍛え「天佑」を期待するレベルが、各戦闘員に要求されたそうですし、海軍では、月月火水木金金という歌にもあるように、ひたすら訓練を重ねることが要求されました。一人一人は、限界までトレーニングをして戦場に臨むことを要求されたわけです。そして大本営の中はといえば、、陸軍の思いと、海軍の思いは意見を戦わせることなく一本化されないまま、戦いは進むのでした。敵国が、日露戦争当時のロシアでもなく、米国という新しい国ということであっても、以前の成功体験した考えでそのまま戦えると思い込んでしまっていたわけです。
そして、大きな戦いにおいて作戦の目的が明確にならないまま、ひたすら現地での戦が進められ、大きなミスを犯し、大敗を続ける姿が浮かび上がってきます。そればかりか、局地戦での敗戦責任が明確であっても、敗戦の責任を問われることもなく、再び指揮を執るといった事態まで発生しています。これは、一体化した作業ではなく、ばらばらの作業の寄せ集めになってしまっています。
日本の現在とも符合する組織論
現状の日本で見てみると、過去の成功体験を背負っている人たちが、GNP世界第二位の日本の経済を「維持すること」が目的だとしています。しかし、それは、本質的なところで違っているように思います。時々、こんな経済だって、土地と株が値上がりすればすぐ良くなるさ、という意見を耳にします。それは、過去のあのバブルのときが「成功体験だった」というわけです。しかしながら、バブルから後で、土地や建物にお金をつぎ込むことは、投資効率は悪いし、各種コストを上げる働きをするというので再び高額な不動産に積極的に投資する人たちは出てきていません。ですから、不動産価格は下落してまだ底値になりませんし、不良資産と呼ばれる不動産物件の始末はついていません。しかも、それらバブルを作り出した銀行がみずから発生させた「不良資産」の処理に税金を投入するということが行われそうになっています。これこそ、太平洋戦争を遂行した大本営と同じ考え、類似の行動ではないでしょうか。すなわち、当時の方針の失敗があったという、反省と対応がないまま、昔と同じ考え方で、処理しようというわけです。経済全体という、大方針は国政(戦時下では大本営)です。そして、各種のビジネス(戦い)は、局地戦なのです。そうすると、局地戦の総括がないまま、次の対応策へと入っている姿が浮かび上がってきます。
一人一人が考えることが原点
そんな時代に出来ることは、一人一人が考えることだと思います。この事は、時間がかかることだと思います。しかし、それをクリアしておかないと、一人一人の役割や、公共の利益すら見えてきません。以前ですと、同じ考えの人々が出会う場面は、決して多くありませんでした。でも、今やインターネットが世界中に張り巡らされています。これを使えば、つながりの人々が考えて、行動するというパターンが伝達しやすくなると思います。戦争中と違うのは、インターネットがあることではないかと思います。これを、原点を確認するための道具にしたらどうだろうかと、真剣に考えています。
追伸
私の尊敬する、奥井礼喜先生の主宰する、ライフビジョン学会がいよいよ、ホームページを開きました。URLは次の通りです。 http://www.lifev.com/ このページの作成は、ネットワーク仲間の山田さんが大いに力を振るってくれました。ぜひ一度、どんな活動をしているか見てください。そして、興味がありましたら、どしどしコンタクトをしてください。
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