シリコンバレーにいると、いろいろなことを考えている人が、世界中から沢山集まっているのを実感します。ある人は、ひとやま当てたいと思ったり、別の人はこの技術を、世界の人々に使ってもらいたいと思ったり、様々です。でも、その中でも「志」という見方をすると、何故か人々の想いが、脈々と伝えられてきているところを感じます。先日、日本から知人が来まして、シリコンバレーを案内しているうちに、思い当たることがつながりを持ち始めました。理解の程度は、十分ではないかもしれませんが、まとめてみたいと思います。
Stanford大学はわが子を亡くした親の思いの賜物
Gold Rushで鉄道事業に成功したLeland Stanfordがこの大学を建てたのですが、その発端は次のようなことでした。Lelandには息子がいて、ヨーロッパへ遊学していたところ、1884年にその地で病死しました。15歳と言う若さでした。両親は、学半ばにして早世した息子の「志」を、他の若い人達に勉学の場所と設備を提供することで実現を図りました。広大な農地(3300haだそうです)を寄付し、そこに大学を作ることにしたのです。1891年にStanford大学は設立されました。キャンパスの中心には、亡くした息子をしのぶために建てられた、アーチのある回廊と、Leland Stanfordをしのんで建てられた、美しい教会とが残っています。私も子を持つ親として、その当時のStanford夫妻の気持ちを想像すると、彼らの「志」がただならぬものであることを実感します。
当時Stanford大学は、東部の大学とは少し違って「実学」をメインにした大学として、発足したわけです。第一回卒業生のなかに、後の米国31代大統領のHerbert Hooverがいます。彼は大恐慌の後にNew Deal政策をとり、Hooverダムの建設など、景気回復の実績を残しました。現在彼の功績をたたえて、Hoover Towerというのが、大学のシンボルとして残された居ます。そのタワーに上がって展望すると、大学とシリコンバレーと、サンフランシスコ湾と、まわりの緑の山が見渡せて、とてもきれいです。
自分でビジネスを始めることを、指導した先生と学生
Stanford大学は、MITから Terman教授を招聘して、実学を学ぶシステム作りにはいりました。その中で教授はWilliam HewlettとDavid Packardに自分達でビジネスを始めることを薦めました。1941年のことです。そして、第二次大戦という環境の中でHewlett Packard(HP)は成長して行きます。ご存知のようにHPはパソコン市場には1995年から進出しましたが、ビジネスとして大きく成長させてきましたし、米国でも超優良会社の評価を受けています。
そこで、HPは何をしたのか
HPは日本ではそれほど知名度は高くないかもしれませんが、米国では2つの意味で革新的な会社といわれています。ひとつは、先ほどのベンチャーとして発足したはじめての会社であったこと。
もうひとつは、HP Wayと呼ばれる、自社の従業員の一人一人を大切にする(あるいは、活性化する)システムを持つことです。このことが、シリコンバレーの現在の活性化に大きく影響を与えてきているのは間違いの無いことです。HP Wayについては、いくつか本が出されていますが、私がとりわけ重要だと思うのは、従業員が提案したことに対して、論理的に「意味がないと説得できない限り」それをやめさせてはいけない、というルールと、会社の中で自分のやりたいことができないときは、会社はその人を支援して、やりたいことをやらせて、もし失敗してもまた、会社に戻れるというシステムを実行していることです。これは、HP自身の生い立ちを考えると素直なことなのですが、でもそれを、現実に実行するのは、素晴らしいことだと思います。会社が従業員の利益を大切に考えるという姿勢をはっきり示しているわけです。ただ、この前提には、会社の存在の前提は「利益である」と明確に書かれていて、現在のシリコンバレーの考え方と良く似ています。
ベンチャーはわが社が元祖という人達
ベンチャーといっても多くの人材は以前からの企業に勤めていて、そこを出て新しいビジネスをはじめるケースが多いわけです。そうしますと、このときとばかりに、わが社こそシリコンバレーのベンチャー供給源なりと名乗り出る会社も出てきます。IBMは4年ほど前にリストラをしましたのでそのときに、優秀な人が多くやめて新しいビジネスに出た人が多いようです。IBMが言うにはベンチャーの70%はわが社の出身であると、胸を張って言っています。HPは特にそのようなことは言いませんが、創業者の資産を財団に移管して、大学や各種団体の研究に対して助成を行っています。最近の株価高もあって、HP財団は米国でもトップランクになりました。助成対象を見ていたら、UFOの研究などというテーマもあったりして、研究の幅の広さをうかがわせました。
HP出身者としては、AppleのSteve Jobsが有名ですが、そのAppleもThink Differentを掲げて、TVやシリコンバレーを走るバスに宣伝をして、存在感を示しています。
この様な流れを見ると、私にははじめの「志」が次々と伝わり、その「志」が大きな生命体のような動きをしているのではないかとさえ思えてきます。これは、シリコンバレーという限られた場所の特別な現象ではなく、じつはどこにでもある普遍的な事象であると信じたいと思うのであります。ただ、そこにも「志」は必須ですが。
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- 【復刻】 045 シリコンバレーの「志」 19980720 from シリコンバレー20世紀