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【復刻】 005 シリコンバレーで日曜大工に挑戦 19970929

私の住んでいるところは、街には近いのですが住宅地なので土日は家庭で過ごしている人を多く見掛けます。 そして彼らは家にいてもじっとしているときがないのではないかと思えるほど、何かをしています。休みの日にはどこからか必ずドリル、鋸かハンマーの音が聞こえます。今回はその実態と背景に迫りたいと思います。

米国人は不器用か?
2年前にこちらにきたときには、箸も器用に使えない米国人は不器用に決まっていると思い込んでいました。しかし、組み立てタイプの机を組み立ててみて、こんな重たくて複雑な組み立て方ができる彼らは「箸の使い方は下手」だけれども不器用とは違う。むしろ、家や車の修理など自分からやって行くなど、実にまめであることにも気づかされました。パソコンなどは自分でふたを取って内部の細かな配線など、太い指で器用にやります。車のエンジンを取り替えた経験のある人は周りにも随分見掛けます。その反面、たしかにものの取り扱いが乱暴で、すぐ放り投げたりしますし、雑なのは本当だと思うようになりました。

そんな環境の中、私のところも今回は、持ち家となりまして自分の都合にあわせた生活空間が必要になってきました。築後40年を過ぎていますので、いろいろ不都合も起こってきます。それを直してくれるのは、お金を払わなければだれもやってくれません。そんなところから、いよいよ日曜大工が必須の状態になり始めました。そこで意を決して、日曜大工に挑戦と相成りました。

何でもそろう HOME Depot
こちらにはHOME Depot(ホームデポと発音します)という大きな日曜大工用品専門店があります。ここでは、家に関することは何でもそろうという感じで、最初にこの店に入ったとき、8メートル四方のプールが壁にぶら下がっているのを見て驚いたことがあります。何しろ大きくてしかもほとんどのものがそろいますので、トラックで乗り付けてくるお客なども多く、いつもにぎわっています。日曜大工の人たちが対象のお店なので、普通の日は朝8時からですが、土曜日などは朝7時から店を開きます。売っているものは、建築資材から照明器具、園芸用品までいろいろです。ここで、何回か見物して気がついたのですが、買い出しにくるのに女性の割合が多い。50%以上であり、しかもその買い物の中身は、建築用の柱や、スチールパイプやコンクリートなど建築資材を買う女性客が少なからずいるのです。本当に彼ら、彼女らはいろいろ自分でやってしまうのです。私も傍目で見ているわけにはゆきません。我が家の不都合を直すべく、いよいよ日曜大工に挑戦となるのであります。では今日の予定です。浴室の棚が古臭くてしかも収容効率が悪いので、まずそれを撤去して、次にその撤去した後のネジ穴をふさぎ、新しく機能的な棚を取りつけるというものです。もしかすると、棚の裏側の壁のペンキも塗り直しをしなければ行けないかもしれないので、ペイントに必要なものも購入することにしました。

何をどうすればいいんだろう?
古くからの棚ははずすのは簡単ですが、はずした後のネジ穴はどうやって処置するのだろうか。
ペンキはどうやって塗るのかとか、使った刷毛の洗浄はどうするのかなど、分からないことだらけです。ともかく、HOME Depotで品物をそろえながら聞くしかありません。ネジ穴はパテで埋めて、ペンキはというと、刷毛や洗浄剤などをそろえて準備をすることとしました。ペンキの塗り方などを専門にやっているケーブルテレビの番組がなぜ存在しているのか、その理由が分かりました。米国人もやはり、良く分からないのでしょう。実際細かなことなど、本当にノウハウがいろいろとあるようです。それでも、雑誌やTVなどでいろいろと情報は手に入るようです。幸いなことに今回は壁の汚れもあまりひどくないので、ペンキは塗らずに済ませて、新しい棚をつけることにしました。

社会のしくみとの関わり
これらの事が出来ると、社会がどのようになるでしょうか。こちらで気がついたのは、住宅価格が安いということです。これは、原材料のコストが安いことに加えて、完成した家の完成度が多少悪くても、使う人がそれをメンテするので、安く出来上がるところが大きな違いのような気がしました。これを、利用者には手入れ不要なレベルまでもってゆこうとすれば、コストが高くなるのは当然です。最低限の完成度は保証して、状態にあわせてメンテするというのが、こちらの家造りの思想だと思いました。そして、問題の対処は自分ですることをいとわない背景があると思います。以前の借家では大家さんが家のメンテは全部してくれました。

そして、家の価値は「きれいで」「住みやすい」「家」に置かれます。土地ではなく、家に置かれますので、今の家をいい値段で売ろうとすると、「手入れをして」「きれな」「家」を維持する必要に迫られます。米国は土地が広いですから、あまり土地の値段は高くはありません。ですから利用する家に価値が置かれます。それで、持ち主は手入れに余念がないのではないかと思いますし、逆に家を手入れをすることにより、購入コストを下げ、価値を増大させるというしくみで動いているように思います。

日曜大工をやってみて、結局シンプルな棚がつきました。その作業一つでも、技術的、経済的、思想的背景まで眺めてみると、個人の技量も結局は経済的なしくみに起因していることが良く分かりました。二時間ほどかけた日曜大工ではありましたが、考えさせられることの多い日曜日でした。

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