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【本-07】 日本の「安心」はなぜ消えたのか 山岸俊男著

  • 2008-04-02 (水)
この本は、先月初めに桃知師匠との勉強会で見せてもらって、面白そうだったので買って読んだ。 日本人意識の解釈が私とかなり共通なところがあり、一気に読めた。
日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点
日本お安心はなぜ消えたのか.jpg
以前から桃知師匠から面白い先生だから紹介するといわれつつ、札幌に何度も行ったのだが、忙しくてつかまらない方なのである。 山岸俊男先生は北大の教授である。
文科省のGlobal COEという、極めて獲得が難しい研究資金も獲得している方であるから、優秀そして、超多忙なのだそうだ。

さもありなん、日本のなかに閉じこもった研究者ではなく、世界を飛び回り、極めて公平に事柄を眺めているのである。
20世紀前半に、今までの古典科学をぶち壊す、量子力学がでてきて、人間の思考パラダイムが変わったのであるが、山岸教授の人文系の研究の世界でも「科学的手法」が持ちいられ、主体と客体の不可分関係を切り分けながら研究が進められている。

私が特に共感したのは「武士道精神が日本のモラルを破壊する」というところである。 これは言うまでもなく、新渡戸稲造が「武士道」を著して、それが有名になってこの本を推奨する人たちがたくさんいることに警鐘を鳴らしている。 私は実に個人的な体感であるが、5年ほど前にCanadaのバンクーバーに行ったことがある。 その街外れには、新渡戸稲造の家がある。 広くゆったりした家である。 「吾太平洋の架け橋とならん」と明治時代の先駆者として、Canadaに渡って来たのである。 しかし、その家は閉ざされたままで、我々は中に入ることができなかった。

新渡戸邸.jpgその場所にたたずんで、ふと考えたのは、新渡戸稲造は「自分が言っていることが理解されぬまま、(多分絶望して)Canadaにいたのではないか」ということであった。 これは、その場所から感じた私の個人的な印象なので、外れているかもしれないが、その土地からは、冷たい流れが感じられた。 

山岸教授のこの本は、日本人の特質を「集団社会」に置いている。 これは、帰属のルールがきびしい考え方で、「信頼社会」とは全く異なる行動を個人に強いる。 すなわちその裏返しは「集団のルール」を破らなければ、安心できる社会である。 武士もまた同じであった。

それに反して、信頼社会ではお互いの利を考慮した関係(お互いの善でも良い)を構築することが重要で、集団主義のルールは通用しない。 世界が(特にシリコンバレーのビジネスが信頼をもとにWin-Winという関係を構築したように)相互の信頼関係に重心を移しているときに集団主義は、その流れを逆行させるのである。

しかも、人間の行動科学の分野でも,

以前このブログに書いたことがあるが、「囚人のジレンマ」の実験から、相手を信頼することが究極的には相互が発展するための、最善のチョイスであるという結論がでている。 この話は、いつ聞いても勇気付けられる。 その結果がありながら「集団主義」に戻る動きは、世界の動きからズレ、日本の社会にもひずみを生んでいる。

人文系での思想の確認は、非常に「科学的」になってきている。 研究者の主観の排除、統計処理の活用、仮説の構築、どれもが「科学的」である。 しかし、行動の原点の思想はよほどのショックがないと簡単には変わらない。 会社のためなら法律違反も辞さないというのは「集団主義」の自然な帰結だという。 それだけでも最近の日本の事象は説明がついてしまう。

この人文系が科学になったように、経営学も立派に「科学」になっている。 経営学の本などは「推理小説」のように事実を丹念にい追いかけ、面白いロジックを使っているものもある。 科学的な手法を使いながら、考え方を変えることしか、日本人が変わるチャンスがないと思うので、これからもしっかり勉強したいと、この本を読んで思った。

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