- 2007-10-20 (土)
思想の原点を、弟子である堀 浩一教授が語っている。
故 猪瀬教授の、発想の原点は、太平洋戦争で散っていった同世代への「顔向け」である。 堀教授の書いた内容を引用させていただくと、猪瀬教授の悲願が伝わってくる。
「1941年の12月に大東亜戦争がはじまりました。一介の銀行員だった私の父が、真珠湾攻撃の例の軍艦マーチを聞きながら非常に憤慨をして、アメリカを相手にして戦争に勝てるはずがあるか、これで日本の国は滅びるんだ、お前は気をつけてこんな戦争で犬死しないようにしろ、といっていたのをいまでも覚えております。あのような時代でも、日本の中産階級は健全な精神をもっていたのです。私はそのとき半信半疑でしたけれども、戦局はどんどん悪い方向に向かって行きました。私はそれまでは大学では美術史でも専攻して、一生研究生活をしたいと思っておったのですが、高等科に進学するさい、理科に行ったほうがいいだろうという話になりました。非常に尊敬していた、当時三菱銀行の会長であられた加藤武男さんから、見たところ君は技術屋に向いている。やがて戦争になるだろうが、日本の国はこの戦争で負けるんだから、その後は技術でもって立国しなきゃいかん、君は命を大事にして、技術屋として大成しろ、ということを以前から強くいわれておりました。その当時は文科系だと徴兵猶予がない、理科系だと徴兵猶予があるということで、親戚一同からもお前は理科系に行ってくれないかといわれまして、方向転換したわけです。
高等学校では寮へ入りました。1943年の秋、寮の食堂の裸電球の下で粗末な夕食を食べておりましたときに、アッツ島の守備隊全滅のラジオ放送があり、続いて学徒出陣つまり文科系の人たちは全員出征というアナウンスがラジオを通じて流れてきました。やがて明治神宮外苑で壮行会が行われ、文科系の学生はどんどん徴兵されていきました。私はいまでも痛切に思い出すのですが、その放送を聞いたときには文科系の学生も理科系の学生も一瞬シーンとしてしまいました。私自身は文科系の学生たちの顔をまともに見ることができないようなつらい思いでした。というのは、私の心のなかに元来理科系に行く気がなかったのに、いろいろな事情から、結局命が惜しくて理科系を選んだという意識があったからです。幸い、私のクラスには一人も戦死した人は出ませんでしたけれども、寮で一緒に食事をしていた文科系の先輩のなかには何人も戦場に行ったまま帰ってこなかった方々がありました。われわれ戦中派は、だれもがそれぞれに自分は生き残りだという意識があるのですが、私もそのときに本当に痛切に、友人に対して会わす顔がないという気持ちがしたのをいまだにはっきりと覚えているのです。」「1945年の8月15日に戦争が終わりました。私の家も焼けましたし、東京はほんとに一面の焼け野原でした。東大からちょっと出ますと、向うに山の手線の電車が通るのが見えました。富士山も筑波山も全部よく見えまして、都心には日比谷公会堂が一つ焼け残っておりました。確かその翌年だと思いますが、今日出海さんが文部省の芸術課長になられて、今日ではすっかり定着しております芸術祭の第一回が、焼け野原のなかの日比谷公会堂で開催されました。私自身もその当時は戦争に負けて気落ちしておりましたけれども、日比谷公会堂に行って五流の家元のお能を拝見し、日本にはこれだけの立派な文化があると非常に感激しました。文化国家の建設が戦後の日本の国是のようにいわれはじめたころでしたが、これだけの文化があるならば、それをもとにしてまた日本の国は立ち上がることができるのではないかということで非常に元気づけられたわけです。その後いつのまにか文化国家の建設という国是はどこかに行ってしまいまして、所得倍増といったスローガンが横行し経済復興優先ということになりました。その後日本は今日に至るまで世界に冠たる金もうけ国家になってしまって、金もうけをする人はえらい人だ、金もうけをすることはよいことだという価値観が、今日までこの国の行動原理を支配しているように思います。しかしそれだからこそ外国からは、日本人は第二級市民だと思われているのです。日本という国は確かに戦争をやればけっこううまくやるし、モノをつくればいいものをつくる。金もうけもうまいようだ。しかし日本人の歴史を見ると、世界の文化とか宗教とか思想とか科学というものになに一つ重要な貢献をしたことがないではないかといわれたときに、なにも反論することができません。今日の日本は余裕もあるし力もあるのですから、これまでの金もうけ主義一筋という姿勢を見直し、初心に返って文化国家の建設を国是としてはいかがでしょうか。われわれはともかくとして、せめてわれわれの子孫が世界の第一級市民として遇してもらえるような努力をいますぐにでもはじめない限り、これからは金もうけをしようとしても何をしようとしても、世界中で壁につきあたるのではないかと思うわけです。」
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