- 2007-09-26 (水)
今回のものづくり経営学―製造業を超える生産思想は、本来擦り合わせで日本の得意な技術が、ITの進歩でモジュール化している例(光ディスクドライブの例)を上げて、日本の独壇場であった光ディスク(ドライブとメディア)の製造技術が、中国や台湾に追い越されてしまったことなど、産業の背後の流れを見ているので、とても面白い。 というか、このビジネスに関わったものとして、納得できるStoryである。 光ピックアップのパッケージを作るところは日本が今でも圧倒的なシェアを持つが、それらを組み立てるのは、中国や台湾のスピード感と、量をさばく力で、完成品の世界シェアは圧倒的に東南アジア諸国が強いのである。
この本では特に、(トヨタの)生産方式がサービス業にも使える、あたりはなるほどと思わせる。 郵便局に応用したり、イトーヨーカ堂が採用した試行錯誤の話も出ている。 トヨタの工程での倉庫のかんばん方式をヨーカ堂が採用したり、待ちうけの島を企画商品に割り当てたりして、すぐに利益につながる効果が出ていると言う。 お客様との第一線の現場の情報、判断、改善、対応など現場での判断、現場での効果がすべてであるので、サービス業と言えども、製造業と同じやり方が、見事なまでに通用する。
もともと、ものづくりをきっちり定義して、研究をスタートしているので、とてもわかりやすい本である。 設計情報を、媒体を通じて届けるのが、製品と言う定義であるから、この定義が、今までの概念を変えて、一つ一つの単位操作が製造業であれ、サービス業であれ、使えると言うわけである。
それから、目からウロコはアサヒビールであった。 どうしても革命的な味の切り替えというところに目が行ってしまうが、本当の革命は地道な品質保証システム(特に客先での味の保証)が大きくシェアを広げた原因であったと言う解析は、ほっとさせる。 ここでも「品質」を「顧客のところまで」と枠を明確にしたところから、改革が進んでいる。 TOPは、それを地道に言い続け、ひたすらやらせることで、本気度を徹底する。
日本型の、従業員のモチベーションは、「次の仕事で報いる」と言う形が中心であったが、近来の「金銭による対価報酬」に替わったところで、日本人のモチベーションが大幅に低下したと言う。 お金をもらっても、モチベーションは長く続かないと言う人間の行動原理があるそうだ。日本の失われた10年も、そのあたりの勘違いを是正することから始まることが必要だと説かれている。
世界の国々のものづくりに取り組む姿勢も集団、大企業中心の韓国から、中小でばらばらな中国の例などアジアの国々への考察を加えている。 中国は、擦り合わせで技術で作られた日本のオートバイをリバースエンジニアリングして、モジュール化して、大幅に安い値段で出すという。 この能力は中国人独特のものらしい。
日本企業の過剰品質はやはり世界市場へ出るにはコスト高で大きな障害になっている面もあり、アジアの国々とビジネスをするには、適切な値段と言うのも重要になってくる。 世界の国々のものづくりに対する特色を現す言葉は、日米欧そしてアジアを考える上で、整理された考え方をもたらしてくれるので、その部分を紹介する
統合力の日本 | オペレーション重視の擦り合わせ製品 |
表現力の欧州 | ブランド重視の擦り合わせ製品 |
構想力のアメリカ | 知識集約型のモジュラー製品 |
集中力の韓国 | 資本集約的なモジュラー製品 |
動員力の中国 | 労働集約的なモジュラー製品 |
この本の中では、「人事評価主義」という90年代に出てきた考え方が、日本の会社の持つ「現場から作りこまれた技術」の伝承を困難にしたことと、擦り合わせではじめた技術が、IT(Firmware)により、モジュール化され、ひたすら数の論理でコストを安くすることで流れてきているが、日本の持ち味は、細かなところにも、きっちりと目を配ると言う部分、世界中でできる国はそう多くないので、この部分を強化させてゆくことが重要であるという結論になる。
藤本隆宏氏はものづくりから、日本の産業を見据えてきて、明るい未来を期待させてくれる。 もう一歩踏み込むと、経営と言う観点で、それを最適化することができると、会社も個人もが活性化するのは間違いない。 いよいよ経営の最適化を考える手法を確立した仙石通泰氏(Mitchさん)の出番が来た!と言うことになる。
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